DJ スクラッチ冬季講習 まとめ

今年のMITの冬季IAP(自主活動ブログラム)でDJの基本スクラッチを6日で教えてもらうクラスを受講したレポートをまとめます。

Day 1

MITでは冬休みで、その間にIAPという、直訳すると自主活動プログラムというのがあります。博士課程なので、そんなのは関係ないのですが、各々、特に単位を気にせず、生涯学習的なノリで、いろいろな自己研鑽ができます。

例えば、Schemeという今はあまり使われていない言語で機械学習を教えたり(MITの昔のカリキュラムでした)。消防士になったり、日本の継手を作ったりと、ヘビメタ入門だったり、もちろん単位になるようなPythonによる統計学入門みたいなものあります。

その中で、今年は何やらすごくDJに特化した授業が多く、DJやヒップホップは博論にも関係あるので、(というか嫌いでも、一般教養として必要ですよ)執拗に受けたい旨をTAに伝えたら、履修できることに。なぜDJなのか、なぜヒップホップなのかは後ほど詳しく説明します。

IAPの話に戻ると、もう一つ数学の圏論をHaskellで教えるのがあって、それは趣味で聴講しに行こうと思っていたけど、DJスクラッチの授業との時間の相性が悪かったので見送ることにした。圏論の方が趣味。

で、ふたを開けてみたら、講師がRob Swiftという東海岸を代表するX-EcutionersというHiphop DJでした。普通のIAPってそこらのアマチュア博士が教えていたりするんですが、いきなり魔神が現れてちょっとびっくりしました。

初日は機器類のセットアップ(ドライバとDJソフトのインストール)と、基本のスクラッチ6つの紹介と演習。Forward Release, Forward Stab, Forward Drag, Reverse Drag, Transformer, Baby。詳しくは若いRobがビデオで教えています。

https://www.youtube.com/watch?v=p8HWriRwyoo&t=435s

一つの音をどう料理するかみたいなので、サンプリングのカテゴリーの中でも曲を継ぎ接ぎするよりも違う感じ。

そもそもなんでDJ?

ろくすっぽ金を稼がずに、Phdを取ろうとしている30代のおじさんがDJやヒップホップを冬季講習にとるのか流石に世間様(特に我が家)に納得していただけないといけないと感じていますし、自分でどう正当化しているかを少し内省してみる。

ちなみに、今までのキャリアとして音楽に踏み込んだ事があるわけでもなく、クラブも20 代前半に池田亮司さんと少し関係があって1行ったりしましたが、その巡り合わせも音楽作りに関係があったわけではなく、触発されて曲作りますとはならなかった。

じゃあ普段から積極的に作業BGMにヒップホップを選曲しているかと言えばそんな事もなく、むしろ思春期の多感で繊細な時期に聞くものだと思い込んでおり、年相応そんなものは別にいらないという感じなので、はっきりいうと聞かない。

今でも、ヒップホップを嗜むという意味では聴かない。2けど、その背後にある文化を知るために、ヒップホップはすごく聞くようになった。そのメディアの文化が建築や都市計画と対照的でそれにすごく興味が湧いたという事です。

と、自分の話から展開してみると…。

DJは何かというとはそもそも自分で太鼓や鍵盤を叩いて原音を奏でるわけではなく、すでに録音された音源を編集する仕事である。それっぽく言うとしたらDJするには絶対に他者がいないといけない宿命なのです。

この時代、この他力本願的な考え方はいろんなところで取り入れられたりするのですが、僕の手の届く範囲でそれをもっとも直接的にやっているから興味を持った。建築や都市計画が全くやっていないというと異論をくらいそうだが、この点において建築や都市計画という分野が学ぶことはまだまだあると思います。

そんな属性をもつDJの中でもいろいろあるのですが、ヒップホップDJもブレークビート(太鼓)にラップを載せて成り立っているという意味でサンプリング色が強いけど、さらに地域性が強い音楽と言うのを「お勉強」をする中で知った。アカデミック権威の権化 (使い方あってるの?)MIT・ハーバードのつまらない研究者が草の根まちづくりについて丁丁発止してる間に、弱冠13才やそこらの、しかも貧しい黒人の子供たちが自分のニューヨークのボロー(地域)のことをレペゼンさせるメディアって物凄い政治的動員力だなあと関心するのです。投票どころかその地域代表しちゃうみたいな。

もちろん地元ギャングやマフィアにリンクしているものだとは思いますが、そう言ったインフォーマルで小さいガバナンスメソッドこそ、人口減少を前にして参考にしなければいけないものだと僕は思うのです。DJやラップは非暴力だしね。

もちろん、DJそのものは趣味だけど、自然あるいは他人の創作物に乗っかって、違うコンテキストに合わせてよりよく伝えるという意味では、建築も料理も都市計画も雑誌編集も論文執筆もプログラミングも子育ても一緒だと思います。前例へのありがたみに対する感受性を高め、自分がどこから来て何をレペゼンしているかを考えるのは、制作者としてのアイデンティティを考える意味ですごく教育的だとも思うのです。

Day 2

1日目の最後に、目的を持ってやれって言われて、確かに、両手とフェーダとレコードの関係が分からなかったからいい音が出るまで挑戦するというやり方だったけど、指摘されて要素分解することに。少しだけ考えて、左手のフェーダに集中しようかな。

あとはどうしようもないリズム音痴なので、周りのビートを聞いておく。最後のQ&Aでやる前に、脱力すると良さそう。ちょっとづつ色々できるようになると、さらに、先生がどれくらいすごいかわかってきた。

Day 3

レコード側の手に少し集中してみたい。どれだけ不器用なんだってことですよ。 transformerというスクラッチ技術の時の両手を別のペースで動かしかたのこつがわかった気がする。あと、時々右手引いちゃってる言われているのでそれをしないように意識する。右手に強弱を付けていきたい。

今日はスクラッチの中でもstabとtransformerの練習だった。レコード側の手の強弱は少し意識できた気がする。(うまく行ってるわけでは無いけど、ゆっくりめのtransformerとかやってみた) stabで音がならないのが気になる。難しいとは言われたけど、多分右手と左手のコーディネーションがうまく行っていないんだと思う。

スクラッチのデバックで難しいのが音がならない場合である。レコードが止まっている(僕の場合左手)のかフェーダが閉まっちゃってるのか(右手)。

レコード側フェーダ音なる?
動いてる開いてるなる
止まってる開いてるならない
動いてる閉じてるならない
止まってる閉じているならない

という2bitな状態でどの場合なのかが分からない。何事も分析的に頭で考えてもしょうがないんだろうけど、頭と体両方でわかった方がいいよね。

Day 4

目標は、右手の力を練習の早い段階で抜くことと、シャープなstabができるようになること。昨日Robが見せてくれた、彼の以前の生徒の模範演技のように、統合論を少し考え始めた方がいいようだ。6個の基本スクラッチの組み合わせで何ができるか。6つと言っても基本的にstabとtransformer、babyが多い気がする。アクセントにForward Release な感じ。dragはあんまり出てこない印象。

練習は来週木曜日の発表にむけての段取りをみんなで確認して、それぞれ基本のスクラッチの担当を決めることに。それに即して練習と最後のQ&Aの練習。このままそれを鍛錬するのかなと思いきや、もう一つ教えたるってことになりcrab scratchを実演。また難しい。フェーダを開いて終わるのが難しい。親指がフェーダの中心よりも下を押さえると2本までならカタカタできる。

テクノロジーというエコシステムの中でDJの衰勢 

Rob Swiftの講演があって、聞きにいく。大方すごくスピリチャルだったけど、scratchあるいはhiphopという歴史が浅い表現形態だからこそ先代に対する感謝とかが多いのかもしれない。あーゆーのってレペゼン・リスペクトとかって言葉がよく出てくるじゃないですか。で、話の中心はスクラッチがテクノロジーによって可能になって流行った反面、テクノロジーによって衰退していく様をRobは見てきてるっていう事だった。盤が回らないDJコントローラ3の方が圧倒的に安くて始めやすいし、色々便利になってるから簡単にDJになれちゃうってRobも嘆いてたけど、自然の摂理でDJコントローラを使う人が出てきたら必然的にその道具がやりやすいような演奏が増えると思う。したがってトラディショナルな意味でのスクラッチは減る。もちろん音楽が作りやすくなってもピアノがなくならないように、絶滅はしないと思うけど、希少種にはなるのかなって。

学ぶプロセスのメタメモ

IAPでいいことは、「新しい事を勉強する」事を勉強するのに適している事だ。そのプロセスの記述のためにこの投稿を書いているのですが、辿ってみると… 最初は何が何だか分からないけど、分からないなりに最初の仮説を立ててみる。次にその仮説の検証がわかると、一つわかり、方向性がわかる。それを皮切りに芋づる式にどうやってわかる事を増やすためのインフラを意識する。論文だったらGoogle Scholarの使い方と文献のたどり方。その世界を統治する魔神は誰なのかを特定し、そのアーティストのファンになる…。もうこれで軌道に乗ると思う。軌道にのったところで、個別具体的なところから全体を俯瞰してみる。ジャンルやフィールドや学派。研究者は基本的に一生これの繰り返しで、なぜなら、論文一本一本が新しいから、言ってみれば最初に読んだときはその世界からみると宇宙人状態。この投稿も4日目で統合論を意識し初めているのが面白い。

参考: 論文の読み方の論文

Day 5

ビートルーピングなる技を教えてもらった。途中でRobが種明かししちゃったんだけど、今はほとんどいらないスキルで、なぜならcueを登録しておけば、ボタンを押し続ければできちゃう。スクラッチという分野本当にテクノロジーに翻弄されているというか、テクノロジーによって開花し、テクノロジーによって下火になっていくのが見えて技術と文化史を語る上でやっぱり面白い。あとふと思ったけど、NYのブロンクスで貧しい黒人の12才の子供たちが発明してそれがMITという超権威で教えられていると思うと不思議。

Day 6 (Final practice)

木曜日のお披露目のおさらいと、流石に練習だけかなと思ったけど、最後の最後にゲインを操作してフェードアウトするみたいなエフェクトを(あくまでマニュアルのスクラッチ技術で)やるやり方を教えてもらった。その後、は最後だし、今まで教えてきたことを一回忘れて一から自分の表現を探すつもりで色々実験してみてと言われ。まあ六日しかやってないけど教えてもらっていない事を発明してみた。緊張もあって、手汗というか指汗でベタベタしているので、左手(レコード側)の指をピアノみたいに個別に動かしながらレコードを引っ張っていくという謎行為をしてみたら変な音が出たのでそれを発明した。すごい褒められた。そうだ、その精神だ、それがヒップホップだと。すごい恥ずかしかった。

youtubeで1980年代のヒップホップってまだまだ健全で、完全に中二病的な内容というよりもまだ闊達な自己顕示欲だけで、なんか全体的にハッピーで楽しんでる感じがしているのはRobの影響だけど、彼はそこの時代の人だからそれに価値を置いてるのがわかって、それって最初のインターネット黎明期超楽しかったよねっていうやつと似てるなぁて。両者共テクノロジーとそれにキャピタリズムが乗った見えざる手が台無しにしたんだという意識だし。

確かに、今はお札が上から振ってきて、裸の女の人がお尻振り回しているヒップホップのミュージックビデオを観ても何にも感じないし、政治的なイデオロギーを盾にするのも疲れちゃったよって感じだから、その1980年代への原点回帰もチルな社会主義が好きな今の若者にもうけるかもと曲解。

スクラッチに話を戻すと、やればやるほど打楽器だなぁって思いました。楽しいから趣味としても続けてみたい気持ちもあるけど、機材を揃えることを考えると、家族会議が必要ですね。黎やらないかなー。最初の興味の原点通り、DJという他人のやったことをベースにやるしかないのがすごく面白くて、一対一で計画や設計、プログラミングに投影はできないけど、ターンテーブルはそれら僕が考える創造活動に共通する価値を含んだメディアだと思いました。

後、パーティに言ってもDJして忙しくしてれば雰囲気感じつつ人と話さなくてもいい!

Rehersal

IAPコースは終わったけど、木曜日にRobの新作発表と共にIAPを受講した学生の小規模デモンストレーションをさせてもらえるらしく、恥ずかしいけど参加することになり、それのリハがありました。

そんなこと言っても、6日間の成果を数分間見せるだけなので、誰でもこれくらい12時間でこれくらいできるようになるよっていうことにですよね。

そいえば、昨日の講演でRobSwiftが2000年代初頭にターンテーブルでの演奏の記法をビデオにしているのが紹介されていて、興味深かった。↓

https://www.youtube.com/watch?v=dDZYPnddllk

口伝伝承ベースの楽器4な訳ですが、ターンテーブルも打楽器という背景があった上で、記法を考えたいっていうマインドは超大事に思いました。これを作った時Robは大体今の僕と同じ歳で、この興味ってある年代になると持つものかなとも思った。

このビデオの背景として、当時Robはターンテーブルも立派な楽器であると言うことを強調したくて、それに対して反対する人たちにむけて作ったそうな。あーでもこうゆうのがあれば、音楽の演奏の変遷とか一望できるのになぁって。CADでもやりたいなぁ。

でもその後にRobがそのものはヒップホップじゃないって言葉が妙に刺さる。こうゆうことをするってなんなんだ。創造的活動の記法に関する考察?

Performance

普段講演とかで発表する機会は色々いただけるのですが、昔から緊張しちゃうので、今回も例に漏れずすごい緊張でした。逆に6日間しかやっていないわけだから、実力もへったくれも無いので、初めてのパフォーマンスと言えるかわからないしと逆にたかをくくっていたら、その後に演奏したお兄さんDJ達からは、ちゃんとサウンドチェックして、本物の会場でたくさん人も集まって、何より伝説のDJの元でやるんだから1分だってやれば立派な演奏だぜみたいなことを言われ。うまくできたねと激励をいただいた。

もちろん僕らは前座の前座的な立場で、その後のRobとmista sinistaのバフォーマンスは凄かったし、7人のDJによるコンポジション(という実験音楽お披露目の会でした。)もよかった。ヒップホップというよりはきれいなアンビエントダブみたいなやつだった。

それにしてもRobすごく教えるのうまかったな。

少しだけ人種多様性の話

ちょっと不思議な言い方だけど、なんか人種抜きで黒人の友達兼先生みたいな間柄が出来たのが嬉しい。友達兼先生のニュアンスが難しい、尊敬するんだけど日本だったらさん付けするような人。特定人種の友達がいないからという理由で友達を作るのは変だから、これはしくめることでは無いんだけど、前回5は人種をすごい意識しちゃう複雑で悲しい経験をしたので今回はそれがなくて嬉しかった。ヒップホップともDJとも関係ないけど、この IAPとって普段の自分のソーシャル・バブルから出れた。研究室内の(ゴミを漁っている方の)ネズミの遺伝子の研究してるひととも仲良くなったし。広義な意味で、脳味噌のリミックスだったと思います。

元々趣味と仕事の境界が無いのですが、続けてみようかなと思いました。良い先生にあった時の一番の恩返しは成長してびっくりさせることだしね。


  1. 池田亮司さんとはインターンみたいな形で、お手伝いさせていていただいただいてました。本文中では別に影響を受けていないみたいな書き方ですが、池田さんの仕事そのものから得た影響ははかり知れなく、ファンだし、伝説です。 [return]
  2. Hiphopにもいろいろあって、すべからく嫌いというわけでもなく、聞きやすい JDillaとかは普通に聞いています。ただ、一般的にHiphopについてるレッテルとしては、昔の中二病属性のギャングスタラップか、裸の女の人が腰振ってお札が振ってくるPVだと思います。 [return]
  3. 普通なら立派なターンテーブル二つとでっかいミキサーを想像しますが、最近だとその5分の一くらいの値段で、全てデジタルで一体になったコントローラーというものが売られています。 [return]
  4. …というか太鼓そのものも時に電話に勝る通信手段なんですよ。 [return]
  5. ハイチの地震で一緒に仮説シェルターを作った時に仲良くなったひとで、災害支援をしにいってるのに隣国ドミニカの人がすげー馬鹿にしていて(その人も含めて、ハイチ全体が)、とうの本人は寡黙にめちゃくちゃ働いて良い人だった。否応なしに [return]