[レビュー] 「高速道路計画におけるグラフィック・テクニックに関するスタディ」 6

レビューそのものは終わりましたが、これにちょっと書き足せば、デジタルデザイン前史になるじゃないと思い、継ぎ足します。日本やその他の国でのアレグザンダーの影響がアメリカに比べてずっと息が長いと思っているのですが、その理由はアメリカでは早々にライオネル・マーチなる学者がアレグザンダーを批評したことにあると僕は考えます。

マーチ・アレグザンダ対決がアメリカ及び英国で最初のデジタル・デザイン論争の始まりだといえます。マーチはマーチでかのアラン・チューリングに数学の能力を認められて特待生になるような魔神ですが、アレグザンダーよりも理論派厳密数学派だと言えるでしょう。

マーチはアレグザンダーに対する批評をあれこれ展開します。というか、本のイントロダクションを丸ごとアレグザンダー批判に費やしてて、イントロの結論でも、「わざと物議を醸すようにしています」みたいな喧嘩の売り方をしています。

マーチの批判は以下:

  1. 形の合成に関するノートってなんか形自動的に出るみたいだけどアレグザンダーは形の統合論というよりそのちょっと前段階だよね。なんか自動的に形できちゃうって弟子含め誤解してる人多くない?

  2. アレグザンダーの哲学的基礎となるカール・ポッパーウィトゲンシュタインの組み合わせって相性悪いと思うんです。犬猿の仲だし1。哲学を追っていくとこの投稿の範疇を超えるし僕もそこまで自信が無いので、控えます。2

続けて、マーチも松川さん3が持ち出しているパースの科学的論理的思考方法を使ってデザインのための理論として説明しています。詳細は設計の設計を読んで見てください。

僕はマーチを学者だって言い切っちゃってますが、建築という分野では実作はほとんどなく、レズリー・マーチンと英国のwhite hallのプロジェクトで、compter aided architecture試してみましたーみたいな方です。4

数学依りのマーチがその後のデジタルデザインに直接的な影響を与えていますが、実プロジェクトとしてアーキテクトなのは(そんなに多作じゃないけど)アレグザンダーで、アレグザンダーはアレグザンダーでその後オブジェクト志向プログラミングに結構影響を与えていたりします。5マーチの批評を今読んで見るとなんか、「ちいせぇなこいつ」のが率直な僕の感想で、アレグザンダーもナイーブですが、マーチはさらに二回り痛々しい。文章も理論も難しいし、文体口調も友達少なそうだし、そりゃ海を渡って言説が届かないのもちょっと納得。

ただしそのマーチが、MITのコンピュテーショナル・デザインの古典的コアのShape Grammers につながっているし、都市分析の手法だと、Space Syntaxも辿ればマーチ先生ですと発明者の Hillierもクレジットしています。6

このねちねち攻撃で数学的に叩かれたアレグザンダーですが、その後1982年にアイゼンマンとのディベートを皮切りに本当にフェードアウトしていきます。7

それにしても出てくる人がみんな歴史的哲人で、なんか現代と歴史のちょうど間みたいな感じで興味深いですよね。数学の集合論が人文系でも注目され始めて、構造主義を始めたレヴィ=ストロースが出てきたり、ちょうどこの頃、sketchpadの博論が同MITから出たりで、日本も含めて面白い時代ですよね。

そんなわけで、デジタルデザイン近代史みたいなのを書いてみました。博士っぽい。

これ以降の話は、まだまだその時代を知っている・生きていた諸先輩方がまだご存命なので、お近くのデジタルデザイン専門の人にお問い合わせください。


  1. ポッパーとウィトゲンシュタインの喧嘩 [return]
  2. ウィトゲンシュタインは哲学を科学みたいに分割不可能な理論の最小単位を定義したいというモチベーションでしたが、それをアレグザンダーも要素に分割するという意味で実践しています。ポッパーは純粋科学と経験科学との違いは反証可能かどうかで仕分けしようとしました。反証できれば、それは純粋科学で、反証できなければ経験科学(よって純粋じゃ無いと)。どうしたってデザイン行為の肝はパースの推論になるので、純粋科学ではありません。よって、一方で科学的に扱いたいウィトゲンシュタインに即したアレグザンダーは結局科学的には行えないと。自信が無いのは、アレグザンダーがどうやってポッパーを意識していたかという点なんですが、なんかヒュームやら、リチャードコックスやら、その後ベイズ理論やら、ブーリアンやら、なんかパースがそもそもシャノンのエントロピー理解してたやら、マーチの博識なのりについてゆけずまだ咀嚼できていません。 [return]
  3. 設計の設計 p220-222 [return]
  4. 僕の書き方、ちょっとアレグザンダーによってますが、結構人間関係的なやつです。なんかマーチ学派ってすごいねちっこいんですよね。すごい熱を持って話してくれるんですけど、鼻息荒すぎてちょっとこわい。すごい人なんですけど、なんかみんなもっとマーチが認められるべきだって憤慨してる感じで暑苦しいんですよね。僕が出会った人は。 [return]
  5. 特に「パターン」ですが。 https://dl.acm.org/doi/pdf/10.1145/181610.181617 [return]
  6. 思想的な枠組みはMarchが作って、実際の都市の解析手法として使える形にしたと行っています。 [return]
  7. このディベートが直接原因かわかりませんが。頭でっかち東海岸代表アレグザンダーと、チルアウトだらだら西海岸の戦いとも取れるようです。アイゼンマンはアレグザンダーのノートを読んで激怒して、なんなら俺もとPhdをとって直接ノートの批判をしています。彼らのバトルはこちらから。1982年の11月17日のハーバードGSDでやりやってます。パソコンが強くなってCADが使えるようになって、逆に西海岸の建築クラスターを助けたのは皮肉ですが、当時のデコンみたいな流れはそれはそれで流行ったけど、そんなに長続きしないっちゅうか、その後は表現というより難しい形態をどうやってCAD(今だったらグラスホッパーでしょうか)で作るかみたいなマゾな趣味になりました。BIMがオブジェクト志向CADなのであれば、今度はアレグザンダー的ですよね。どっちもどっち。 [return]